11 4月

高等学校での実例紹介(しつもん通信No.0より抜粋)

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やっぱり継続することが、大事なんだなと再確認─

 

桑沢先生が魔法の質問と出合われたのは2005年の10月だったとか

たまたま新聞で、ミヒロさんと別の方のワークショップが開催されるという記事を見つけて、「自分を知る」というテーマに惹かれて行ったのがきっかけですね。ミヒロさんが質問を投げかけて、ひたすらそれに答えていくという形だったんですが、気がついたら自分のいろんなことが見えて、すっきりして終わったんです。「質問ってすごいな」という印象でしたね。

その時点で、もう授業でこれをやってみようとお考えでしたか?

ええ、いろんな気づきや発見があったし、モヤモヤしていたものが解消するということを体感したので、これは使える!と思ったんです(笑)。

それですぐに学校に持ち帰られたんですか?

当時担任をしていたのが、卒業を控えた3年生のクラスだったんです。生徒たちには、ミヒロさんの本から抜粋した「魔法の質問とは」というプリントを渡しました。子どもたちは、魔法の質問って何なんだろう、と興味津々な様子でしたね。卒業までの3ヶ月あまりでどんなことをやっていこうかと思っていたんですが、魔法の質問がぴったり合いました。

どんな質問を使われましたか?

授業で最初に使った質問は、「あなたは昨年のあなたを超えていますか?」というものですね。2005年の11月16日でした。そのあと、「あなたは、どんなときに目の輝きが変わりましたか?」、「あなたがすぐにでも実践したいものは何ですか?」と続けました。私が自分ではじめて作って子どもたちに投げかけたのは、「好きな言葉は何ですか?」という質問です。

最初に質問を作ったときは難しいと思われましたか?

いいえ、そうでもなかったですね。ミヒロさんに出会ったあとから、ミヒロさんのブログを見て、自分でも毎日答えを書いていたんです。そうやって繰り返していく中で、自分でも生徒の今の状況に合ったものを作れるんじゃないかと思ってやってみたら、そんなに気張らずに自然に作れましたね。

桑沢先生のクラスの生徒さんたちがとても美しい質問を作れたと伺っていますが、
答えることで質問を作る力が身についていたんでしょうか?

そうですね、そう思います。普段は、私が質問を投げかけてそれに答えるという形を取っていて、生徒が質問を作ることは特にしていなかったんですが、質問に答える、他の人たちの話を聞く、そういうことを続けてきたから、質問を作る力が自然とついていたのかなと思いますね。やっぱり継続することが大事なんだなということを、私も再確認しました。

継続がポイントなんですね

継続ですよー(笑)。なんでもね。

魔法の質問の授業を受けている生徒さんと
受けていない生徒さんで大きく違う点は何ですか?

魔法の質問は、質問に対してまず自分で考えて答えを書きますよね。そして発表して、人の話も聞きますよね。これによって、何か一つのものに対して自分の考えをしっかりまとめられる力がつくし、人の話をちゃんと聞けるようになるし、人前で自分の考えや意見について話をすることもできるようになります。高校生って、特に女の子なんかはそうなんですけど、人前で話すのは恥ずかしいんですよね。でも、魔法の質問をやっていると、最初はほんとに静かな子が、みんなの前でだんだん普通にしゃべれるようになっていくんですよ。それと、人の話を聞くことで、「ああ、そういう考え方もあるんだ」っていう気づきも得られますからね。それは魔法の質問をやっているクラスとそうでないクラスは、ぜんぜん違うと思います。

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すごく感動したし、やっぱりいいものは広がっていく─

 

今まで魔法の質問の授業をやってきて、何か印象的なエピソードはありますか?

最初に魔法の質問をやった卒業生を出したときに、ミヒロさんがサプライズで卒業式に来てくださったんです。「実は今日、お前たちの卒業をサプライズでお祝いしたいっていう方がいらっしゃってるんだ。紹介するね、マツダミヒロさんです」って言ったら歓声が上がって、涙をこぼしている子もいたくらいですよ。その生徒たちに魔法の質問をやったのはほんの3ヶ月間でしたけれど、自分の変化を自覚したり、いろんな気づきがあったり、子どもたちも思うところがあったんでしょうね。ミヒロさんが本にメッセージを書いて、生徒ひとりひとりにプレゼントしてくださったんですが、それも子どもたちにとっては一生の宝物になったと思いますよ。そこには保護者の方もいらっしゃったんですが、卒業して1ヶ月くらいしてからかな、あるお母さんが学校に来られて、「家でも魔法の質問をやっています」とおっしゃったんです。「家族でやってみてすごくいいなと思ったので、実は私が勤めている会社でも、同僚とやってるんです」と伺って、そのときはすごく感動したし、やっぱりいいものは広がっていくんだなあと思いましたね。

もうひとつエピソードがあるんですが、魔法の質問をやり始めたあとに、いろんな理由で学校をやめざるを得なくなってしまった女の子がいたんです。昨年、別の生徒の結婚式で、その子と5〜6年ぶりに会ったんですね。そこで話をしたときに、彼女が「先生、私、魔法の質問まだやってるんです」って言うんです。「魔法の質問っていいですよねえ。私、つらいときや苦しいときに、魔法の質問の本を見ながら号泣することがあるんです」と話していましたよ。学校をやめなければいけなかった生徒にも魔法の質問は根づいているんだなあと思って、すごく嬉しかったですね。

魔法の質問をやり始めてからの生徒の変化について、
周りの先生方から反応はありましたか?

ちゃんと自分の考えを述べられるようになったっていうのは言われましたね。「この生徒がこんなふうに考えられるの?」とかね。最初はひとつの質問に対しての掘り下げ方が浅かったかもしれないけれども、継続してやっていく中で、他の人の話を聞いていろんなことに気づいたり感じたりしながら成長していくんでしょうね。

成長するのには、考えて、まとめて、発表できる力がすごく大事なんですね

ええ、必要だと思います。それと、他の人の意見を聞くということがとても大事だと思いますね。自分の考え方と異なる意見の人を排除してしまう生徒がどうしても多い中で、いろんな考え方があっていいんだということに気づいてほしいと思っています。

先生がそう言ってくださるだけで心強いですね

私が教えている数学では、答えはひとつなんですけどね(笑)。今までも、生徒たちに「意見は違っていていいんだよ」と言っていたけれども、魔法の質問に出合ったことによってさらにそれが確信になったので、自信を持って言えますね。魔法の質問で私自身が勉強させてもらったし、すごく成長したなと思うんですよ。だから、今年は1年生の担任なんですけど、いつから始められるかなあってワクワクしちゃいますね(笑)。

「違っていていい」と言えるのは、どの答えも正解という前提があるからでしょうか?

そうなんです、答えに間違いはないので。こちら側が本音で対峙すれば生徒たちも真剣に答えてくれますし、子どもたちはそういうところを見ていますよね。この人はいい加減なのか、ほんとに真剣に俺たちにぶつかってくるのか、みたいなところをね(笑)。
そういえば、1回、入試の面接試験でも使わせてもらいましたよ。

面接で?どんな質問をされたんですか?

「どんな人の真似をしたいですか?」っていう質問です。ミヒロさんの本にあったものをちょっとアレンジして、何年か前の面接で使ったんですよ。プリントしたものを生徒に読ませてから質問したんです。ありきたりではない、いろんな答えが出ておもしろかったですよ。入試にだって使えてしまう魔法の質問(笑)。すごいよね。恐るべしです。


勇気を与えてくれたり、前に出る元気が湧いてきたり、癒しになったり─

 

桑沢先生は、魔法の質問の授業をされるときに、あえてグループわけをせずに、
先生対生徒でやってらっしゃいますよね。それはなぜですか?

たとえば40人のクラスだとしたら、自分以外の39人の意見をみんなで共有したいなと思ったんですね。ホームルームの中でみんなの意見を知るためには、そういうやり方がいいなと思ったんです。それと、ただ人の話を聞くだけだと流してしまうことも多いので、必ず生徒たちのコメントを回収して、全部私がパソコンで打って、次の授業でもう一度プリントを渡して、声を出して読ませるんです。授業のときには感じなかった生徒も、改めて文章を読んだりすると、「そんなふうに考えてるクラスメイトもいるんだ」とか、「この答えなんて、俺が絶対考えつかないことだ」っていう気づきや広がりが出てくるんですよ。そして最後に、卒業文集の中に魔法の質問コーナーを作って形に残すんです。形にすることで、彼らが卒業してから文集を読み返したときに、勇気を与えてくれたり、前に出る元気が湧いてきたり、癒しになったりするんじゃないかなと思っています。

入力するのも時間がかかりますよね?

ええ、かかります。ただ、魔法の質問を現場でやっていくと、実際に生徒が変わっていくんですよ。だからそこまでしなくてもいいと思うんです。ハードルを高くしなくても、週に1回でも月に1回でもいいから、子どもたちに質問を投げかけるということを継続していくといいんじゃないかなと思います。でも、私は魔法の質問の伝道師だと思っているので(笑)、そういう教員もひとりいてもいいんじゃないかなってね(笑)。魔法の質問との出合いで私自身も変わったし、たくさんの生徒たちにもっともっと広まっていくといいなあと願っています。

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魔法の質問を通して、生徒たちにどんなことを身につけてほしいですか?

最終的に学校を卒業して生きていくときには、必ず壁にぶつかると思うんです。でもそのときに、ふと立ち止まって「自分はこう思うけれど、他の人の意見もちょっと聞いてみようか」という考え方がベースにあるかどうかで、ぜんぜん違うと思います。そういう「生きる力」も身につけてほしいし、ついていくと思いますね。

最後に、先生にとって「魔法の質問」とは?

…そうですね、自分を変えてくれるもの。成長させてくれるもの。私の場合には、それを子供たちに伝えて、子供たちに成長していってもらうための大事なものですね。魔法の質問恐るべしです、はい(笑)。